解説と評価~オーストラリア史上最高の傑作

2012年1月21日に日本で劇場公開

アニマル・キングダムは、2012年の犯罪ドラマ。日本では2012年1月21日に劇場公開された。新宿武蔵野館など。

実在の犯罪者一家から着想

オーストラリアのどうしようもない犯罪者一家を描いた。 1988年に警官2名の射殺事件で無罪となった悪人(トレヴァー・ペティンギル)の家族から発想を得ている。

史上最多の10部門

スター俳優が出演していない小規模の独立系映画ながら、「傑作」として絶賛された。

2011年のオーストラリア・アカデミー賞(オーストラリア映画協会賞)で史上最多の10部門を受賞。また、18部門すべてにノミネートされる快挙となった。

ジャッキー・ウィーバーはオスカーにもノミネート

一家の祖母を演じたジャッキー・ウィーバーは2011年の米アカデミー賞(オスカー)の助演女優賞にノミネートされた。

批評家の評価を集計する米ロッテン・トマト(Rotten Tomatoes)では「97%」という驚異的な高得点を出した。

クエンティン・タランティーノは「年間のベスト映画」の3位に選んだ。

なお、監督のデビッド・ミショッドはこれが初長編だった。

受賞歴

オーストラリア・アカデミー賞(オーストラリア映画協会賞)
部門 受賞
作品賞 アニマル・キングダム
監督賞 デヴィッド・ミショッド
脚本賞 デヴィッド・ミショッド
主演男優賞 ベン・メンデルソーン
主演女優賞 ジャッキー・ウィーヴァー
助演男優賞 ジョエル・エドガートン
読者賞 アニマル・キングダム
第83回アカデミー賞
部門 ノミネート
2011年 助演女優賞 ジャッキー・ウィーパー

感想・レビュー

大分の映画館主

悪の血が脈々と流れる一族の一人として生まれた若者が、ある種の成長を遂げてゆく物語だ。だが、その成長がカタルシスを生むことはない。全編を支配しているのは、どこにも逃げ場のない袋小路に追い込まれたような重苦しい空気だ。

このオーストラリア映画は、アメリカ映画のアンチ・ヒーローものとは明らかにちがう。自分の損得とその場の感情だけで生きている掟(おきて)も美学もないただのワルたち。そいつらに囲まれ、その悪事を傍観するだけの主人公の、足がすくむような体験が、乾いたタッチで描破されてゆく。

甘い感傷の入り込む余地のない孤絶感に、身震いさせられる傑作だ。

読売新聞

異様に感じるのは、非日常であるはずの暴力が、日常として描かれているからだろう。直接的な暴力描写がふんだんにあるわけではない。一家の暮らしは、犯罪以外は普通の人々と変わらない。だが、家族の普通のやりとりの中に暴力の臭いが漂い、狂気が潜む。理不尽な暴力と日常は、どこまでも表裏一体だ。しかも、描写に映画的な美化がなく、生々しい。それがスリリングで実に面白い。

快活な笑顔から、冷酷さとふてぶてしさ、そして愚かさをあらわにしていくウィーバーの演技が圧巻だ。主人公の青春の挫折も、切ない。

 

あらすじ(ネタバレは最小限)

17歳の若者がうつろな目でテレビの前のソファに深々と沈み込んでいる。ジョシュア(ジェームズ・フレッシュビル)。表情には、悲しみも動揺もない。見ているのかいないのか、テレビの中の喧噪(けんそう)が部屋中に響いている。若者の隣には、ぐったりとなった母親がいる。そこに、ほどなく救急隊員がやって来る。どうやら母親は麻薬で昏睡(こんすい)しているようだ。隊員の救命措置の甲斐(かい)もなく、母親は麻薬の過剰摂取で死んでしまう。

ジョシュアを引き取る祖母(ウィーバー)の一家は、母親の兄弟であるおじ3人が暮らす。当たり前のように、強盗や麻薬売買で生計を立てている。ひどいワルどもの巣窟、言わば「野獣の王国」なのだった。次第に犯罪に巻き込まれるジョシュア。一方で、一家は警察に追い詰められ、自滅していく。

概要

題名 アニマル・キングダム
英題 Animal Kingdom
ジャンル スリラー
監督 デビッド・ミショッド
出演 ベン・メンデルソーン
ジェームズ・フレッシュヴィル
ジャッキー・ウィーヴァー
脚本 Animal Kingdom
公開(初上映) 2010年1月22日(第26回サンダンス映画祭)
公開(オーストラリア) 2010年6月3日
日本公開 2012年1月21日
上映時間 1時間53分
興行成績 500万豪ドル